Our Story
その答えは、バリ島の朝にある。
Act I — Bali, Indonesia
寺院に漂う濃い煙。
額に触れる風。
祈りの言葉。
修行のために渡ったバリで、
毎日のように香を焚き、祈り、呼吸し続けた。
ある朝、体が動かなかった。
Bridge — 焚き火の前で
仕事で全国の山や川や森を走り回る日々の中で、
ずっと「自然の中にいる時間」に救われてきた。
焚き火の匂い。
朝露を含んだ森の空気。
川のそばで深呼吸した時の、
あの透明な感覚。
——自然の香りは、こんなにも体に優しいのに。
なぜ「お香」だけが、
こんなにも遠い存在になってしまったんだろう。
Act II — 原料を探して
お香を自分で作る。
そう決めてから、国内外の原料を探し回った。
でも——
ネットで買える原料は、出所がわからない。
安全性も、誰も証明してくれない。
届いた粉を手に取ると、違和感があった。
色も、香りも、粘りも、まるで別のもの。
Fact
お香素材の約半分を占める「椨(タブ)」の粉。
日本のお香の根幹を支える、もっとも重要な原料。
なのに日本国内で流通しているものは、
すべて海外製だった。
色が違う。匂いが違う。粘り気が違う。
——名前だけが同じ、まったく違うもの。
そしてほとんどのお香屋さんが、
それを使っている。
Act II — 転機
途方に暮れていた時、
一人のおじいさんに出会った。
川の上流にある、小さな工場。
電気は使わない。
水車だけで、粉を挽く。
熱もかけない。機械にも頼らない。
粉を手に取った瞬間にわかった。
「これだ」と思った。
今も、その方から直接原料を譲っていただいている。
大量には出せない。効率も悪い。
でもこの粉でなければ、
私が作りたいお香にはならない。
Act III — 覚悟
お香は、腐る。
夏場、温度や湿度の管理を少しでも怠れば、
あっという間にカビが走る。
だから、世の中のほとんどのお香には
防腐剤、凝固剤、着色料、化学香料が入っている。
入れなければ、あの市場価格では絶対に売れない。
じゃあ、無添加で作ればいいじゃないか。
——やってみればわかる。
焚き火の前で思い出す。
あの森の空気。あの透明な呼吸。
自然のままの香りは、
こんなにも穏やかで、やさしいのに。
大切な人に渡すものに、
知らない薬品が入っていてほしくない。
家族や動物のそばで焚くものに、
説明のつかない成分を入れたくない。
だから、手間でも、非効率でも、
自然のまま作り続ける。
Ending — 有限の光
クリスタルインセンスのお香には、
水晶のパウダーが入っている。
山口県の、限られた一帯でしか採れない。
その鉱脈は、あと15年で尽きると言われている。
だから今のうちに、
一本一本、手で作り続ける。
いつか「あの香り」が
二度と作れなくなる日が来るかもしれない。
でも今日、あなたが1本焚いてくれたなら——
それが、この灯を守ることになる。